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日本酒の味って何で決まるの?

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伊澤 優花

2017/01/30

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「ワインはさ、年によって味が違うもんだから、そこが面白いんだけど、日本酒はそういうのないの?」


以前、寿司職人の方に聞かれたことがありました。

Rice wineと言われても、wineではない。

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ブドウの出来によって8割決まると言われるワインの品質は、人間が制御できない天候・気温といった自然環境によってブドウの出来が左右されるので毎年味が違います。

Rice wineと言われるくらいですから、日本酒もワインと同様に考える方は少なくありませんが、造り方の面でいうと、ワインと日本酒はかなりベツモノです。

同じ醸造酒ですが、日本酒と違ってワインは水を使わず、100%ブドウジュースがそのままワインになります。ブドウが既に糖分を持っているので、酵母を加えるだけでアルコールになる、「単発酵」と言われる発酵の仕方をします。

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一方日本酒の原料はお米ですから、デンプンであるお米はそのままアルコールにはなりません。
そこでデンプンをブドウ糖に変える「糖化」という過程が必要で、日本酒では麹の酵素の力を使って「糖化」と、酵母の力を使ってブドウ糖をアルコールに変える「アルコール発酵」を一つのタンクの中で同時並行して行うという、非常に複雑な並行複発酵という発酵の仕方をします。


また日本酒の主原材料は米と水であり、できあがった日本酒の約80%の成分は水です。


写真のように、日本酒の醸造工程はワインと比較して醸造工程が圧倒的に複雑なため、醸造工程がシンプルな分、原材料であるブドウの品質がダイレクトに影響するワインに対し、日本酒は「造り」が品質に影響する割合が圧倒的に大きくなります。


いうなれば、日本酒は造りが8割。

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もちろんワインも、酵母や、醪の管理、熟成の方法などブドウ以外の面で作り手がワインの品質に影響を与える部分がありますが、それでもブドウの重要度の大きさは変わりません。ソムリエがワインを飲んで産地や品種を当てるように、ワインの基本的な骨格はブドウが作るものです。


一方で日本酒を飲んで米を当てるのはプロでも難しい。

ワイン方程式

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ワインの品質がブドウの品質(=気候)によってどれだけ決まるものなのか実感するのに、示唆に富んだ面白い事例があります。


統計学をかじった人やワイン好きの方ならご存知かと思いますが、著名な経済学者、オーリー・アッシェンフェルター氏が、育成期の気温や降雨量と、ワインの競売価格を重回帰分析しました。重回帰分析とは、簡単にいうと、複数の要因があるとき、各要因がどのように影響しているのか解明する分析です。


ワインの品質= −12.145 +
+0.00117 ×冬(10月~3月)の降雨量
+0.614 × 育成期平均気温(4月~9月)
ー0.00386 × 収穫期降雨量 (8月~9月)
+0.0239 × 1993年までのワインの熟成年数


ここではワインの品質と値段(競売価格)はほぼ正比例する、つまり値段が高くついたものほど品質が良いという前提で左辺をワインの品質としています。冬の降雨量、育成期平均気温、収穫期降雨量、熟成年数を変数とし、一次関数で表した非常にシンプルな式です。

ワインのすごい人たちから大ブーイング

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つまりその年の気候でワインの品質がほぼわかっちゃうという式です。すごい。そしてこのイノベーティブな理論は、ワインのすごい人たちから大ブーイングを食らいます。イノベーションに反発はつきものですね。


この方程式が注目された90年代、それまではワイン専門家の官能評価という、経験と勘のみが唯一の指標であり、またそれによって自由に価格相場を動かせることが評論家たちの利権でもあったわけで、この方程式が世に出た時は多くの評論家が激怒しました。


世界有数のワインの権威、ロバート・パーカー氏に至っては “an absolute total sham.” (全くのいかさま野郎)と抗議しています。


しかしこの方程式がかなりの的中率であることは、いままでの予測と結果で明らかになっています。

おまけ(興味ある人だけ読んでください。論文の原文読んで見てわかったこと)

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・右辺を見ると、育成期平均気温の係数 “0.0614”が他の係数と比較してかなり大きいので、いうなれば、育成期平均気温によってほぼワインの品質を当てられることも式から読み取れる。

・あと、ワインの品質と値段が正比例するということですが、論文の原文では左辺(目的変数)は「Dependent Variable: LPRICE2 Logarithm of Average Vintage Price Relative to 1961」と定義されており、つまり「61年モノに対する平均ヴィンテージ価格の対数」。ここではボルドーワインなので『log e(その年のボルドーワインの平均価格 / 61年モノの平均価格)』。eは自然対数。

また61年モノは論文で扱われているデータ中で最も価格が高いのでこの対数(『』内)はマイナスになる。でも平均価格が高いほどこの値は大きくなるので、価格と品質の相関は確かにあり、ゆえ「ワインの品質」と表記している。厳密にはワインの価格は指数関数的に上がるということだから、ワインが高くなればなるほど品質に見合わない?とも読み取れる。

原文
http://liquidasset.com/orley.htm

原文データ
http://liquidasset.com/winedata.html

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何が言いたいかというと、ワインはこの方程式が経済学者によって示されるくらい、ブドウの出来(=その年の気候)によってワインの質が決まるもの。


一方、日本酒の方程式を作るとしたらどうなるでしょう?

日本酒の方程式は可能か?

ワイン方程式では、ワインには格付けやオークションという文化があり、品質評価によって価格が変動することから、ワインの品質=ワインの価格として作られています。一方の日本酒は、ワインのように高低に大きな価格にばらつきはなく、ほとんどが同じ価格帯でわちゃわちゃしています。


鑑評会やコンテストといっても金賞は大量にある上(なんでこんなに金賞あるの?とつっこまれるやつ)、数値評価されたものはあまりありませんから、有意なデータもない。それはどういうことかというと、日本酒の品質(左辺の目的変数)を定量評価(数値で計測)できない。


右辺(日本酒の品質を決める関数)に関してはさらに大変でしょう。日本酒は造りの各工程が変数になりますが、浸漬状態、蒸しあがり状態、酒母、麹、醪の進行、搾り、火入れ・・・・・何を基準にどう評価するのかな。仮に評価できたとしても、


そもそも、浸漬状態は蒸しに影響を与え、蒸しは麹に・・・というように、各要素(説明変数=ここでは各工程)同士の関連が高いと、不安な回帰モデルになってしまい重回帰分析は上手くいかなそう。
 

日本酒の場合、米よりも造りで品質が決まる、という持論を補強するために、上記のワイン方程式の事例を取り上げてみたのですが、ちょっと話しずれちゃった。

日本酒の場合、米よりも造りで品質が決まる。

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だから毎年の米の出来によって毎年味が違うっていうのは造り手の未熟さであって、日本酒ではワインのようにそう、有り難がられることではないのかなと。



米は重要でないとかそういうこと言っている訳ではありません。ワインを飲む方々が、『ワインにとってのブドウ』と同じように『日本酒と米』の関係について捉え、やたら米の品種・産地ばかり着目されることが多いことが多いのですが、日本酒はRice wineと呼ばれてもwineではありません。

あくまで言いたいことは、ワインのフレームを当てはめているだけでは、日本酒は魅力は見えないよ、ワインと日本酒に共通する魅力はたくさんあるけど、ワインのメガネを外さないと見えない日本酒の美しさ、面白さも、たくさんあるんだよということです。

「つくり手」に重きが置かれる

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もちろん日本酒の原料である米だってブドウと同じように農産物ですから毎年作柄が違います。それでも、毎年の米の出来を踏まえた上で、毎年同じ味、または去年よりさらに良い物を醸すのが職人の腕の見せ所というか・・・料理人さんだって、今年は食材よくないから、美味しいの作れませんとか意地でも言い訳しないですよね、手に入った食材で、変わらずに美味しいものをお客さんに出すのは、職人のプライド。食材はもちろんだけどそれ以上に「つくり手」に重きが置かれるのは、料理と酒造りが似ている部分では?どんなによい食材だって、生かすも殺すも作り手の腕次第。


いつ行っても同じクオリティを提供できるお店なら、「あそこは相変わらず美味しいね」だし、行くたびに良くなっていたら、つくり手の成長に感動しますし、目が離せなくなる。一方で毎回かなり味のクオリティが「ブレる」ようでしたら、いい食材が手に入らなかったのだろうと考えるよりむしろ、シェフに何かあったのかなって思われるかも。

次回のテーマは今回の続編。