純米に非ずんば日本酒に非ず?   | SACKET | 海外の飲食店・消費者と蔵元を繋ぐ、日本酒の情報インフラ
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純米に非ずんば日本酒に非ず?  

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伊澤 優花

2017/01/10

日本酒は純米しか飲まない、アル添は悪い良いするからイヤだ。
どこで作られた物かもよく分からない添加物を入れた酒なんてニセモノ。酒として出来上がった後の状態で「調整」のために入れた添加物など、出来損ないのごまかしではないか。


いーや、アル添で美味しいお酒はいっぱいある!アル添も酒造りのひとつの技術だ。昔の三増酒のイメージに引きづられて、通ぶって純米主義を誉めそやすけど、そもそも純米とアル添飲んで見分けつくのか?

アル添と純米を巡っては長いこと様々な議論が行われてきました。

アル添とは

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アル添とは、醸造アルコールを添加したお酒の通称で、醸造アルコールとは増量、酒質調整、アルコール調整などの目的で加えられるエチルアルコールです。ブラジルや東南アジアなどの国から粗留アルコール(サトウキビの製糖過程で出てくる廃糖蜜由来の、純度の低いアルコール)を輸入し、日本で連続蒸留して純度の高いエチルアルコールに精製したもの。最近は米・穀物由来の醸造アルコールを使用する蔵もあります。


アルコール添加の目的は、

1. 香りを引き出す
香気成分は水よりもアルコールによく溶け込むため、香り高いお酒になります。日本酒特有の吟醸香を華やかに引き立たせてくれます。ずらっと並んだたくさんのお酒の中から一発テイスティングで(飲み込まれることなく)評価される全国新酒鑑評会で、アルコール添加した酒が多い理由のひとつです。



2. 軽やかで、キレを良くする
辛口に導きます。添加されるのは約30%のアルコールなので、添加した量に比例して糖類が薄まるため、「辛く=糖分の割合が少なく」なります。ただ、アルコール添加によって減る成分と、減らない成分があって、いわゆるアミノ酸や香気成分などはほとんど減らないため、単純に味が薄まるわけでないという研究結果も出ています。



3. 増量(普通酒の場合)
吟醸酒や本醸造には、アルコール添加量に関して上限が設けられているため、増量が目的ではありませんが、普通酒の場合、低コスト大量生産のためにアルコール添加が利用されます。

増量目的の醸造アルコールの添加は、先の戦争の米不足を受けて、苦肉の策として生まれた俗に三増酒と呼ばれるもので、米で作った酒にその2倍量の醸造アルコールを加え3倍に増量し、味が薄まった分を糖分や酸味料を加えて調整した「なんちゃって酒」の流れを汲んでいます。

この三増酒は日本酒の黒歴史とされ、現在においても日本酒のイメージへ暗い影を落としています。悪者扱いされてますが、辛い時代、米不足の時にあっても酒を必要とした人々に僅かながらにも潤いを与え人々を支えた存在なんですよね・・余談ですが。



4. 腐造を防ぐ(昔。江戸時代の場合)
現代のように火落ち菌(日本酒を白濁させ腐造させる細菌)検出薬もなければ分析技術も発達していない江戸時代には、見えない微生物を相手にする日本酒づくりにおいて、腐造は何よりも恐怖でした。腐造は瞬く間に蔵全ての酒を全滅させ、蔵元を廃業に追い込み、蔵人を困窮させ、税金も納められなくなるほどの経済損失を生み、その責任の重さは杜氏を自殺に追い込むことも少なくありませんでした。そんな江戸時代に、腐造を防ぐ安全醸造の目的で柱焼酎という米焼酎や粕取り焼酎を添加する方法が確立しました。すごいですよね、最初に焼酎ぶち込んでみた人。微生物が「杜氏さん・・聞こえますか・・僕たちのお家のアルコール度数を高めて、悪い菌から守ってください・・聞こえまか・・・」って囁いたのかもしれません。

アル添は伝統的製法?

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アル添擁護派の主張として多いのが、この柱焼酎を醸造アルコールのルーツとし、アル添は江戸時代から行われいた伝統的技法であるというものです。

ただこの主張にしてはやや不自然な部分がある気がします。そもそも柱焼酎の目的は腐造を防ぐことであって、香りを高める、キレを良くするなどというのは後の世で出てきたものです。醸造技術の発達により腐造のリスクが大幅に減った現代で、防腐の意味合いで利用されることはもうありません。

さらに、柱焼酎は米焼酎や粕取り焼酎という、単式蒸留による本格焼酎(焼酎乙類。お値段も高い)を使いますが、現代使われている主な醸造アルコールは異国のサトウキビの絞りカスなどを原料とする、連続蒸留によって作られた工業アルコール(焼酎甲類。安い)です。柱焼酎をルーツとするなら、その時と同じく本格焼酎を使っていただきたいところですが、そうした場合の製造コストを考えると、安価な増量手段にはなりませんね。(本格焼酎を使ったアルコール添加をする蔵もあります。もちろん増量目的ではなく。)

純米酒はピュアなのか? 添加物って?

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日本酒の神様こと故・上原浩先生が書かれた「日本酒を極める」という日本酒ラバーのバイブル
https://www.amazon.co.jp/純米酒を極める-知恵の森文庫-上原-浩/dp/4334785727

を読むと、純米酒最高!と唸らずにはいられません。ぜひ読んでください。

純米酒の良さは十分わかりますが、純米酒以外は日本酒じゃないというほど、アル添はマガイモノとして嫌われるべきものなのでしょうか。上原先生も、アル添を全否定してはいません。


ピュアな米の酒と書いて純米酒。純米酒の裏ラベルをみると原材料:米・米麹・水と書いてありますね。表示義務があるのはこれだけですが、安全醸造を目的に醸造工程で添加されることが許されている、表示義務のないものもあります。


現在の約9割の日本酒が速醸酛(1910年に国立醸造試験所にて開発された現在「普通」になっている酒母の立て方。残り1割が、生酛・山廃)では、醸造用乳酸を添加しますが、醸造用乳酸は良くて、醸造アルコールはダメなのでしょうか。人工的に培養され、アンプルで配布される酵母はいいんですか?麹菌が生成する酵素を補うための「酵素剤」や、発酵を助けるための「ビタミン類」などは?

アルコール添加は、技術か?ごまかしか?

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純米派の主張に、醸造アルコールは素で勝負できない不出来な日本酒を「修正」する人工的な添加物だ、そんなの邪道だ!という見方があります。


一方で、アル添アル添って、入れれば簡単に香りが高くなる、すっきりするチートな魔法みたいな言い方するけど、醸造アルコール添加のタイミング・量の判断には技術力と蔵のセンスが問われる大切な酒造りの一技術だ!という意見もあります。

アル添にも純米にもいろいろある

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一概にアル添だ、純米だと言ってもいろいろあります。アル添・純米問わずクオリティの高い酒は、アル添か、純米なのか見分けることすら困難です。出品酒レベルともなれば、プロでもそう簡単に見分けられるものではありません。

それに純米酒も、純米だからって必ずしも美味しいわけではありません。アルコール添加という調整が効きませんから、まずく造られたら、まずいものはまずい。


美味しさの面でアル添、純米を一概にどっちが上だ下だのいうのは難しいでしょうね。

美味しさの問題じゃない

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アル添・純米酒論争に関して思うのは、美味しさどうこうではなくイデオロギーやフィロソフィー、つまり思想の問題だろうということです。


日本酒は単なる嗜好品でなく、文化であり芸術。思想や流派があって当然ですし、だからこそ面白いものです。


純米にこだわることも、美味しければいいじゃないか、頭でっかちに考えるな!というのも、それぞれ一つの思想です。蔵によって、飲み手によって、その思想は異なります。


ワインでは、アルコールを添加したものは酒精強化ワイン(フォーティファイドワイン)として別ジャンルになりますが、日本酒もこれだけ純米・アル添論争が起きてるなら、同じように別ジャンルとして区別してもよいのではないかと思います。海外に持っていく時も、説明しやすいですしね。