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日本酒の 手作り VS 機械

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伊澤 優花

2017/01/09

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手作りと機械。「手作りの日本酒=いいもの」と「機械生産の日本酒=あまりよくないもの」のように、対立する二つの概念のように捉えられがちですが、実際どうなのでしょうか?

そもそも「手作り」ってなんでしょう?

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明鏡国語辞典によると、「機械を使わずに人の手で作ること。」とあります。機械を使わない。これを手作りの定義として当てはめた場合、精米は・・・私の知る限りどの蔵も精米機で精米された米を使っていると思いますが、杵(きね)と臼(うす)を使って米を突くことになります。江戸時代には動力として水車を使っていたようですが、これを機械とするなら使えませんね。水車を使った場合にも現代の精米機のような高精米は不可能ですから、「手作り」にこだわっていた場合、吟醸酒は誕生しえません。

おっと、こんなの屁理屈だ!!という声が聞こえてきました。とりあえず精米については目をつむっておきましょう。

蒸しあがった米をどう運ぶかという工程だけでも、人間がスコップで掘り出し布に包んで運ぶ方法、機械を操作して米を取り出し、ベルトコンベヤーで運ぶ方法・・いろいろあります。

製麹(麹造りのこと。蒸しあがった米に種麹を振りかけ、温度や湿度を調整しながら麹菌を繁殖させ麹を作る工程)には半自動・全自動製麹器がありますが、すべて手作業だとしても麹室の温度管理は機械がコントロールしていたりします。

搾り(醪を搾って酒と酒粕に分離する工程)には多くの蔵が薮田というアコーディオンのような圧搾機を使用していますが、伝統的製法では撥ね木搾りという、テコの原理を使用し上から重石で圧力をかける方法がありました。これは機械でしょうか道具でしょうか。機械と道具の線引きについても見解が割れそうですね。いずれにせよ「手絞り」ではなさそうです。そんな感じで火入れ(低温殺菌)、瓶詰め、ラベル貼り・・各工程にいろんなやり方があるわけですが、「手作り=機械を使わずに人の手で作ること」と定義した場合、(現代の)日本酒を作ることは難しそうなことが分かります。

何を「手作り」とするか

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ここで「手作り」の定義を再考してみましょう。「手作り=機械を使わずに人の手で作ること」とした場合、日本酒に完全なる「手作り」はありえません。必ずどこかで機械を使っています。なので、なにを「手作り」と定義するかは蔵によって異なると考えてみました。

広辞苑には『手作り-手ずから作ること。自身で製すること。』
とあります。自身で製する。人の手で作るより意味の範囲に幅がありますね。

どこまで①人の手作業でやっているのか、あるいは②人の創造的取り組みが入っているか。

極論、米を入れてぴっとボタンを押したら日本酒が出来上がるとしても、その設計は人間がしたものですし、レシピを作り、どう機械を使うかを決め、ボタンを押すのは人間ですから、必ずどこかで人間の作為が入るわけです。
小麦粉とか材料を入れてボタンをぴっと押したらパンが出来上がるホームベーカリーは手作りと呼べるのか?①の定義ではNOT手作り。②の定義では手作りですね。

日本酒に関しては
①手作り=手作業にこだわるという意味と、
②手作り=米や醪と対話しながら、人間が制御するという意味で使っている蔵で違いがある気がします。

機械まかせではなく、機械を合理的に導入する

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②米や醪と対話しながら、人間が制御するに関してですが、「米や醪と対話しながら」というのは、日本酒造りとは自然環境に左右される米という農産物と、生き物である微生物を扱う仕事だからで、それが全自動生産による超高品質な日本酒の製造は現在の技術では難しいという事実につながっているのではないでしょうか。実際、ほとんどの市販酒をかなり広範囲な機械制御で生産している蔵含めどの蔵も、本命をかけた鑑評会への出品酒は機械まかせにせず、人間がじっくり米や醪、そして自分自身とも向き合い、対話しながら作った渾身の一本であることが一般的です。

米や醪と対話しながら人間が制御する「手作り」では、必ずしも手作業にこだわりません。単純作業の場合、人の手より機械のほうが均一で正確な作業ができるため適している場合もあります。一方で自分の手で触り、五感で感じながら対話することが大切な工程もあります。機械任せ、機械頼みにするのではなく、機械を合理的に導入しながら、人にしかできない仕事をすること。これが②の手作りではないでしょうか。

手作りの良さ

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一方で手作り=手作業の良さもありますよね。

恋人・子供が作ってくれた手料理。愛情という付加価値が加わったことで、味ではプロが作る料理には劣るかもしれないけど、それよりも美味しく感じる手料理の魔法。

美味しさだけを絶対的指標とせず、原材料、製法へのこだわりやストーリー、思想、哲学も含めて日本酒の「価値」と見ることで日本酒の多様性が広がります。

美味しさだけを絶対的指標とした場合、分析技術・製造技術が発達し、よりオープンになりつつある現代では、酒質の均一化が進んでいくだけでしょう。

こだわりとしての手作り

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地元の生産者が作る地元のお米にこだわるのも、味だけでなく、地元らしさ、テロワールにこだわるという「思想」を選んだからですよね。米の品質もしくは価格で選ぶなら、地元以外の米のほうが良い場合もありますから。

人の仕事だから完全じゃないけど、それも含めて自分たちの味だ。醸造技術の発達と近代化により酒質がどれもこれも似通ったモノばかりになりがちな現代、そういう思想こそ大事にされても良いのではないでしょうか。
実際、近年の醸造技術のトレンドにおいても過度に還元的(酸化させない)、クリーン(麹の手入れにも手袋をさせるなど)な方向に行き過ぎているのでは?という見方もあります。

ただ、誤解してならないのはこだわりの製法の一つとして「手作り」があるが、美味しいお酒を作るために手作業による手作りが必要条件ではないということです。

プロである以上、完璧なものを目指す。不完全さを愛情でカバーしようなんてプロじゃない!という見方だってあるのではないでしょうか。
手作業でやるよりも、機械がやったほうがより美味しいものができるとわかったなら、さらなる高みを目指すために機械を導入するのは理の当然。

蔵によって様々な思想がありそうですね。だから日本酒は面白い!まさに酒屋万流!